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症例名を、あえてつけるなら
逆行性部分的健忘
おとうさんが、医師からそう言われたらしい。
頭部の外傷、心因的作用やストレス等が原因で
記憶やその一部が抜け落ちてしまう事で
志伸さんの場合は病的なモノではなく、ほぼ事故が原因だという。
その抜け落ちてしまった部分が
今のところ、あたし、咲良 華に対するモノだけで
それは、事故前の‘華をはねたかもしれない’という
パニック的な精神状態に深い関係があるのではないかと。
もう、笑いしか、出てこない。
マンガやドラマの世界じゃあるまいし
……どんな訳でこうなったんだ。
どうしても、試練を与えたいらしいこの導きに
笑いとため息しか、ナイ。
医師が志伸さんに簡単なテストをした。
「あなたのお名前は？」
「副島 志伸です」
「ご両親のお名前は？」
「咲良 宏明、メイ子です」
「では、こちらの方は？」
「吉田 あゆみさんです」
「ご関係は？」
「婚約者です」
「このボールペンの使い方は分かりますか？」
「はい」
医師が差し出したペンの上部をクルリと回した。
「あちらの方に見覚えは？」
医師があたしの方を見て
志伸さんもそれに続いて視線を投げた。
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