24

3/36
1633人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「……いえ、申し訳ない」 いつもと変わらないテノールよりも少し低い音が 室内に響いた。 「おにいちゃん……」 お母さんが眉を寄せ呟く。 おとうさんは、そんなお母さんの肩に手をそえた。 そんな時、吉田パパが言う。 「じゃあ、あゆみ、今日の所は失礼しようか 志伸くんもこんなに大勢じゃ、疲れただろうし」 「うん、そうね」 あゆみさんも、吉田ママも頷いた。 「まぁまぁ、本当にご心配をお掛けしてしまって」 「何を仰います、咲良さん」 パパママ達はお互いに励まし合うように話し出す。 今日の結納が、延期になってしまったんだもん 当然だよね。 そんな中 あゆみさんが志伸さんの手を握りながら 何かを囁き、涙を流した。 志伸さんは 大きな掌でそれを拭い、あゆみさんの頭を撫でながら やっぱり何かを囁いていて 別に、婚約者同志なんだから、当たり前っちゃ 当たり前の光景で 軋む キリキリと、音を立てて あたしは目を伏せて 静かに病室を出た。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!