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「……いえ、申し訳ない」
いつもと変わらないテノールよりも少し低い音が
室内に響いた。
「おにいちゃん……」
お母さんが眉を寄せ呟く。
おとうさんは、そんなお母さんの肩に手をそえた。
そんな時、吉田パパが言う。
「じゃあ、あゆみ、今日の所は失礼しようか
志伸くんもこんなに大勢じゃ、疲れただろうし」
「うん、そうね」
あゆみさんも、吉田ママも頷いた。
「まぁまぁ、本当にご心配をお掛けしてしまって」
「何を仰います、咲良さん」
パパママ達はお互いに励まし合うように話し出す。
今日の結納が、延期になってしまったんだもん
当然だよね。
そんな中
あゆみさんが志伸さんの手を握りながら
何かを囁き、涙を流した。
志伸さんは
大きな掌でそれを拭い、あゆみさんの頭を撫でながら
やっぱり何かを囁いていて
別に、婚約者同志なんだから、当たり前っちゃ
当たり前の光景で
軋む
キリキリと、音を立てて
あたしは目を伏せて
静かに病室を出た。
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