22/24
前へ
/35ページ
次へ
暫くして 看護師が車椅子を押してこちらへ向かってくる姿が視界に入る そこに、乗っていたのは 副島 志伸、本人だ 額にガーゼ 唇に絆創膏 オレはきっと彼を凝視していたからだろう 彼は、その視線に気付きオレと目を合わせた 表情も雰囲気も何一つ変える事なく 目を逸らし、車椅子は進んでいく 本当に 何も覚えてないのか? 華の事だけを忘れた筈なのに? 華を通じての記憶も忘れてしまったのか 通りすぎて行くその横顔に 様々な念を投げつけ、見送る エレベーターを待つ二人に対してオレは後ろの正面 看護師が彼に語りかける 「副島さん、ご気分は悪くないですか?」 「ええ、大丈夫です」 「検査は一時間程です」 「そうですか」 到着したエレベーターに車椅子ごと乗り込むと 看護師はその中で180度回転する オレに向き直った副島 志伸 扉が閉まる直前に 絆創膏を貼った唇がゆっくりと笑いを示す 伏せられた目が持ち上がり、それはオレに焦点を絞った
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1587人が本棚に入れています
本棚に追加