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コンコンとノックされた扉が
スルリと滑って
車椅子を手にした看護師さんが
「副島さん、検査の時間ですよー」
部屋の空気を変えるようなそのメロディーと共にやって来て
正直ホッとした。
「あ、じゃあ僕も帰ろうかな」
身支度を整える吉田さんを見ようともせず
志伸さんはあたしに声をかける
「華ちゃん、大丈夫?」
車椅子に移る前に立ち上がり
あたしの腕をキュッと握った
「……うん、おにいちゃん、いってらっしゃい
あたし、待ってるね」
記憶のナイ志伸さんには
何の事だか分からないでいて欲しい、そう願って……
「じゃ、ちょっといってきますねー」
車椅子に志伸さんを乗せて
看護師さんは出ていった。
おにいちゃんは記憶が無い方が
おにいちゃんらしい
夕べの電話もあたしがちゃんと家に着いたのかが
心配で、眠れなかったそう。
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