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その日は暑かった
梅雨にあまり雨も降らなかったからか
植樹されている土台に亀裂が入っているほど
乾いている
だが、日本特有の
あまり、蒸発のしない湿った生温い、いや、生熱い空気が
足元から纏いつき
照りつける陽射しは、遠慮なく肌を焼く
熱い
研究室にもようやくクーラーを入れ始めた矢先
ノックされたドアに
矢谷が小気味よく反応をした
「はい、……あっ」
珍しく矢谷が小さな感嘆をあげたので
オレはパソコンから視線をあげて
開いたドアの先を見た
「こんにちは」
「こ、こんにち、はっ」
クスリ、と笑ったその顔に
きっと、絶句しているであろう矢谷の後ろから声をかけた。
「咲良くん」
「ご無沙汰してます、三神センセー」
入り口から部屋の奥までバッチリと視線のラインが絡んでいて、その間にいる矢谷の事は視界には入らず
矢谷はそのラインを往復しながら
「あ、じゃぁ、僕、今日はもう失礼します、三神先生」
そう言って
慌てて荷物をロッカーから掴み出して、研究室を飛び出して行った
なかなか空気を読めるようになったもんだな
と、そう考えて
ふ、と口許が緩んだ
「センセー、座ってもいいですか」
中央のテーブルを指差して彼女がまた、静かに微笑んだ。
「どうぞ」
オレは立ち上がり
コーヒーメーカーから
さっき落としたばかりのコーヒーをカップに注いで
彼女の側に移動した
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