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周りの皆が、何事かと思って あたし達を振り返る。 あたしに声をかけようとしたゼミ仲間が 泣いているあたしに躊躇したり 海治が冷やかされたり こんな少しの事でも、瞬間に起きるドラマは様々で そんなシーンを今まで見ようともしなかったあたしは だいぶ人生で損をしたみたいな気持ちになった。 「海治っ」 歩きながら 「うん」 あたしは、叫んだ 「あり、がとっ」 「うん」 正門を出てやっと勢いの収まった歩みは 近くのコーヒースタンドへ向けられようとしていて タオルで涙を拭きながら あたしは海治に伝えていた。 「海治、絶対、引くよ……」 「引かないよ」 大丈夫、と大きな掌が頭を撫でたその時だった。 「咲良 華さん」 淀みのない、クリアな音質。 あたしの周りにはいない、声だった。
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