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「気に入った?お姫様」 「……ありがとーござい、ます」 店内を見回しながら呟くあたしの姿を 肘をテーブルにつき掌に顎を乗せた姿勢で ニコニコと見守るのは ひじりさん。 連れて来られたのは東京ミッドタウン。 どうして、誰も、お店にいない、の? 外はあんなに賑わっているのに このお店だけ、closed がかかっていたの? 一時間くらいの間に、何があったの……。 あの半端ない出迎えは、ナニ。 そして、ここでも傾けるのはシャンパン。 フルートグラスの中に、店内の照明に照らされた 桃色の液体。 細かな泡をその中に溜め、少しずつ、だけど連続的に 上らせていく。 あたしは、不躾だと思ったけど もう、聞かずにはいられなかった。 「ひじりさん」 「はい」 「ひじりさんは何者ですか?」 暫く絡みまくった視線は 彼の目が細められるまで、続いた。 お抱えの運転手兼ボディガードだという男性が あたし達の座るテーブルから約5メートル離れた くらいの所で立ち、あたしの吐いたセリフに対し ギョロリ、と瞳をこちらに向けた。 怖い。 さっきから 全てが怖いし、気味が悪い。 「あはははははははははははっ」 急に笑い出すのも、最早恐怖だった。
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