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「楽しそうですね、聖さん」 「そりゃ、やっとなるようになるんだもん 楽しくない訳がないよ」 「……手に入れるまでは、楽しいけど 手に入ってしまえば、おんなじですよ、きっと」 運転手兼ボディーガードの千春さんの運転する車の 後部シートで 片や笑いの絶えない男 片や一切笑わない女 が、表情と同じまったく真逆の会話をする。 「おいおい、寂しい事言うなぁ」 「一般論ですよ」 「今からスルのに盛り上がりに欠けるじゃない」 「盛り上がってるフリくらいはします」 「フリ、じゃ済まなくなるよ」 「……」 そりゃ、そうか。 別に、嫌ってる相手じゃないし。 「そうですね」 あたしが荷物を取りに行ってる間に 聖さんとママの間で何があったかは知らない ただ、その時店長に言われたのは ‘聖さんの言う事は必ず聞けよ? お前は彼に買われたんだ よかったな、せいぜい飽きられんようにな’ それだけ。 あたしは店長の舐めるような視線が嫌いだった。 変わらず、水曜と金曜の出勤も命ぜられて ただ、あたしに勝手に辞める権利はない。 彼らが無事 志伸さんとあゆみさんが入籍を果たすまで なるべく波風を立てないようにしなければならない。 婚約も済ませたんだから 後、もう少し。 少し、我慢すれば、いい。
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