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あたしは本当に貴重な体験をしたな、と思わざるをえなかった。 大学での生活はかなりの充実ライフで 色んな事をするのに、時間が足りない。 「華!」 「聖さん、ご無沙汰です」 足早に駆け寄り、迷いを見せない聖さんは あたしを潰れる程、抱き締めた。 「良かった……華」 「は、い」 きっ、と、本当に 潰す、つもりだ…… ほんとに、60を過ぎてるんだろうか……この、オヤジ…… 久しぶりに会った聖さんは相変わらずで 「ね、どうして、誰もいないんですか?」 「華と会うのに、雑音で邪魔されたくないだろ?」 やっと、十分に息を継いで 周りをグルリと見回す。 千春さんが5メートル離れた位置にいて その隣にギャルソンが二人並んでいる。 ここは青山の、予約が取れない、で有名なイタリアンレストランだったと思う。 しかも、今日は週末のはず。 「はぁ」 「華は憂鬱そうな顔しても綺麗だね」 思わず千春さんの方を見ても 千春さんは、首を横に振るだけ。 そして、それは突然の事。 「華、謝ってどうなる事でもないんだけど ……本当に申し訳ない」 「聖さん、もう、大丈夫ですから」 あたしは小さくなって頭を下げる聖さんに、元の位置に戻って貰えるように促した。 「……生きた心地がしなかった」 「え」 「華が居なくなったら、そう思うと……」 目頭を押さえながら 小さく首を振る聖さんに 「いやいや、いますから」 苦笑いをこぼしながら 「本当に、すまなかった」 「聖さん……」 「傷だって、残っただろう?」 「はい」 申し訳無さそうに、こっちを見る 弱気な三神 聖。
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