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音には乗らない 唇の動きだけ ‘イイデスヨ’ 待ち焦がれて、コレダ、と思って見つけたものが 案外期待外れな場合は多くて 待つ間に、妄想や想像が膨らみすぎて そのイメージが出来すぎてしまう事から 手にした時には、あぁ、なんだ、と結局落胆してしまう だけど もっと欲しくなった場合はどうすれば? 持ち帰る事は無論 ずっとwaitさせておく訳にいかず 40にして惑わず、と偉人は言った オレは惑ってばかりだ そして、目の前の明け透けな欲に溺れて かき混ぜて帰って行く 「奏さん」 「ん」 「忘れられない夜にしましょう」 どうして お前はそんな風に 当たり前のように、オレを揺らすんだ フワリと微笑み そして、何事も無かったかのように また、電車の揺れに身体を預けて 華との何もかもは 忘れた事なんてナイ 「おかえりなさいませ」 ホテルマンがすれ違いざまに挨拶をする この時間はちょうど出入りが激しくて 何台もあるエレベーターがチラホラ窮屈になる エレベーターの一番後ろで 我慢の限界を感じたオレは 彼女にピタリと寄り添い 壁際の方の手を彼女の身体に這わせた バラバラと吐き出されていく乗客 一番上から一つ下へ到着して エレベーターをやっと降りる カードキーをエントランスで差し込む手間すらも 憎らしい
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