終 #2

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「華を放り出して行った事は事実だし、責任の有無も確かめなかった事は何の言い訳も出来ない。 ただ、 向こうで数学に打ち込めたのは彼女のおかげだ。 何かを全うしなければならない時には必ずそれに のめり込まなきゃいけない時期がある。 オレは華のその優しさと強さを利用したんだ」 ゆっくりと 空気に伝わる湿り気のある音が耳に馴染んでいく。 「能天気にただひたすら計算に埋没できるように そう仕向けてくれた、君のお母さんを利用した」 「ひでぇ大人」 「ホントにそうだな 毎日彼女を想って、研究と計算と証明に没頭できる日々は 思ったより素晴らしかった。 結果もちゃんと残せたしね。 だけど、今日思ったよ。 君を、初めて見て、君という存在を知って 計算なんて出来ない、役に立たない、そんな もっと素晴らしい瞬間をどれだけ見逃したんだろう、って」 そうだ。 あたしは、二人の繋がりをあたしの我が儘で断ち切った。 一番ひでぇのは、あたしだよ、響ちゃん。 「だけど、これは誰の所為でもない、オレ自身の所為。 君の言うように、会いに、顔を見に、戻って来ればよかっただけの事だ」 響ちゃん、ごめん。 「ごめんな そんな簡単な事も出来なくて 君のお母さんにも辛い想いをさせて、ごめん それに、君にも会いに来なくて…… ごめん」 響ちゃんに 4歳の子供に 真っ直ぐに向かって頭を下げる大人は その子供の父親で。 響ちゃんはとても難しい顔をしていた。 響ちゃんは4歳だけど、頭が良くて 理解が大人並みか、ソレ以上で 奏さんがただ、自分の利己だけを押し通して 5年間を過ごしたんじゃないと、分かっているはず。
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