終 #2

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それから 大学院と予備試験と悪阻と 本当に青白くなりながら過ごした何ヵ月かを やっとの事で乗りきり 論文と、口述が終わってめでたく迎えた11月の半ば。 予備試験の合格通知が届いた。 これでやっと来年司法試験に辿り着ける。 あたしが、彼に追い付くのにはまだまだ時間がかかるんだ。 その前に フライングしたのは悪い事だとは思わない。 奏さん。 あなたの遺伝子を勝手に育てている事を 許してください。 だけど 今は伝えません。 怒られるかもしれないけど 今は、伝えられません。 お腹に手を当てると 命の動きが伝わってくる。 どっちだろう。 あなたは、男の子だろうか、女の子だろうか。 どっちでもいいんだ。 奇跡の夜に出会って 奇跡の愛を交わしあって 育まれた奇跡の子だから。 元気で、産まれてくれればそれで、いい。 「華、おめでとう」 「ありがと、志伸さん」 「冷えるよ、そんなとこにいると」 志伸さんは、いつでもあたしの身体を気遣い、庇いながら 傍に寄り添ってくれる。 これじゃ、あたしが傍に居て、って頼んだみたい。 「大きくなってきたな」 手を添える姿は、知らない人が見れば間違いなく お腹の子の父親に見えるだろう。 「うん」 あたしの手を引いて 部屋の中へ連れ帰る。
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