episode.7

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水曜日。 就業時刻終了と同時にパソコンを閉じて残業もせず席を離れる私を中川さんは何も言わずに見送ってくれた。 今日は昌さんと待ち合わせの日。私が待ち合わせに指定したのは、いつかのビジネスホテル。 駅の裏手にあるドラッグストアで妊娠検査薬を買ってから、約束の時間よりも早い時間にホテルに入った。 こもるような臭いのする部屋で所在なくベッドの隅に腰掛けてみる。 開け放たれたカーテンからは春の訪れに心が踊る昼間とはちがい、日が沈む頃からどこからともなく淋しさが忍び寄る。 乾燥する部屋には備え付けの冷蔵庫のモーターが動く音だけ。耐え難い緊張感に吐き気が強くなり始めた。 浅くなる呼吸から意識して何度か深呼吸を繰り返す。カラカラに渇いた喉に生唾を飲み込む音が頭に響く。 昌さんが来る前に確かめなくちゃ…テーブルに置いたバッグの中の紙袋に視線を投げた。 乾いた唇を一舐めして腰をあげ、バッグから抜き取った紙袋を破く。 簡素はパッケージを指で押し開けて、取扱説明書と一緒にプラスチックを取り出す。 広げた紙にざっと目を通してから、ユニットバスのドアを開けた。
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