『それ』

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『それ』がいつからあったのかは解らない。 気が付けばあったのだ。 いや、最初からあったのかもしれない。 だけど、きっと大切なのは『それ』の存在を知っていたか、ということである。 答えは知っていた。 だけど、気付かない振りをしていた。 だって、皆そうなのだと思っていたから。 そうするべきものだと思っていたから。 辛いのは自分だけじゃあないのだ、と。 だから、深く埋める。 土で覆うように、押し込めるように。 深く、深く。 もう二度と見ないように、見えないように。 深く、深く、深く。 『それ』を忘れるように、最初からなかったかのように。 深く、深く、深く、深く――。
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