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ベッドに横たわる「M」は、虚ろな目で、痛々しい表情で、真っ白な顔色で僕に向けて微笑んだ。
「ああ、本当に来てくれたのね」という彼女の息を吐くような一言に、耐えていた涙が止めどなく流れ、その勢いのまま彼女を強く抱きしめた。
僕は「M」に抱きしめたまま、愛していると言った。
何度も、何度も愛の言葉を囁いた。
けれど「M」からの返事はない。
構わず僕はありったけの想いを彼女にぶつけた。
君は汚れてなどいない、と。
君は誰よりも美しい、と。
僕は君を愛している、と。
何度も何度も、そう囁いた。
彼女は、「M」は、その言葉をずっと聞いて、しばらくの間を空けてようやく僕の言葉に頷き、自身も同じ気持ちであった事を話した。
「私も愛しています」と一言言って、「M」は僕の腕の中で涙を流した。
彼女のか細い身体は、まるで触れれば壊れてしまいそうに繊細で、彼女の泣きじゃくる声は全身を引き裂かれるように痛々しい。
けれど、皮肉にも僕はずっと気付いていなかったその想いにようやく気付くことが出来たのだ。
「M」が元通り、外を出れるようになるまで1ヶ月もの間、僕は彼女の家に厄介になった。
彼女の両親も僕から離れようとしない「M」を見て承諾し、僕の両親からは一歩間違えたらもっと大変な事になっていたと電話越しにひどく怒られた。
お陰で古い友人からは未だに1ヶ月学校を無断欠勤した不良だとからかわれるハメにはなるが、それでももし「M」がまた僕の助けを求めるのであれば、僕はいつだって駆けつけるだろう。
それくらい僕にとっては「M」の存在は大切だったのだ。
あるいは自分の命よりもずっと、僕は彼女が大切だった。
けれど、それから「M」は体調を壊し、長い闘病生活を送る事になる。
彼女の心に深い傷を負わせたあの事件を切っ掛けに、その傷は彼女の身体さえも蝕んでいった。
僕は彼女達が何故こんなにも何もない町に越してきたのかを初めて理解した。
生まれつき身体の弱い彼女達は体調を崩しがちになる。
それは「M」だけではなく、「U」もだった。
医師からも恐らく長くは生きられないと宣告を受けていた。
それでもこの町に越してきてから彼女達の体調は比較的安定して来てはいたのだ。
けれど、今回の事件を引き金に「M」の体調は悪化していった。
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