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目が覚めると、そろそろ終点間際だった。
どことなく見た事のある風景が目をよぎる。
僕は大きく伸びをすると、腕時計で時間を確認する。
もう、夜の19時だった。
随分と長いこと寝ていたものだと我ながら感心する。
久し振りに訪れるあの町に、僕はあの頃のような気持ちで足を踏み入れられるだろうか。
時間という存在は残酷だ。
どれだけ過去に戻りたいと願った所で僕達は進み続けるしかないし、止まってしまった時間は二度と動かない。
距離という存在は残酷だ。
僕がもっと彼女の近くにいる事が出来たなら、もっと彼女の側にいる事が出来たなら、違う結末になっていたのではないか、そう思わずにいられない。
あれからずっと僕と彼女は手紙のやり取りをしていた。
どれだけ悲しい現実に直面したとしても、僕達は互いに支え合う以外にその現実を受け入れる方法が解らなかったのだ。
今なお、その答えは出せていない。
それは僕の弱さであり、「彼女」の弱さだった。
──やがて、僕は目的地である小さな田舎の、駅のプラットフォームに足を下ろす。
どうやら終点まで乗っていた乗客は僕一人だけだったようだ。
あの事件以来、町はどんどんと衰退の一途を辿っていき、もしかすると数年後にはこの町は無くなっているかもしれないと聞いたことがある。
それを思うと少しだけ感傷的な気持ちになる。
ここは僕にとって色々な想いが詰まった場所だから。
真っ直ぐ駅を出ると、そこには僕が生まれ、彼女と出会った向日葵畑の町が広がっていた。
まるで何も変わっていない。
ここだけ時間が止まっているようですらあった。
世界と隔離されたようなその鮮やかな光景は、チクリと胸に淡い痛みを宿す。
思わず目を逸らした僕がその後、目に飛び込んだのは外灯に照らされて僕を待つ1人の女の子だった。
顔を見たのは2年ぶりだ。
大人びたワンピースに、長い黒髪はかつての面影を残したまま、僕の目にとても魅力的に映る。
一層美しく成長したその少女は、向日葵畑によく似合っていた。
少女は俺を見つけ、駆け寄ると朗らかな笑みを浮かべ「お久しぶりです、みーちゃん」とはにかんだ。
もう十年来の付き合いなのにも関わらず、彼女は丁寧な口調を崩さない。
その少女は、「U」だった。
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