距離と時間

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 大学生活も2年を過ぎ、同級生や先輩、後輩ともようやく打ち解けられた頃、季節にしてそれは初夏の日だ。  間借りしているアパートは日差しが強くて、扇風機が送る生暖かい風はむしろ不快ですらある。  学内ではもうすぐ夏休みに入る事もあり、周囲のどこかはしゃぐような声も頻繁に耳にした。  とは言え、夏休みの過ごし方と言うのは真剣に将来を慮る人間にとって非常に重要な意味を持つ。  ただ遊んでいると言うだけでは後々困るのは自分自身だという事に一体どれほどの人間が気付いているだろうか。    そんな事を言うと古くからの友人には「おや、君ともあろう人が随分と真面目になったものだね」と笑われるかもしれないが、やはりツケというものはどこかで払わなければならないという事を僕は充分に理解しているのだ。  大学生活は楽しい事が溢れている。  僕だって何も勉強だけが全てだと言うつもりはない。    けれど、大学を遊ぶ場所だと勘違いをしている人達が多い事もまた事実なのだ。  ある先輩などは今年でもう3度も留年をし、本人はその事について全く、これっぽっちも、毛ほども気にする様子はない。  僕達が卒業する頃には先輩も卒業して欲しいものだが。  ……話が逸れてしまったが、とにかく僕は勉強だけが全てだと言うつもりはない。  息抜き程度、勉学に支障がないある程度であれば、気の合う友人と酒を酌み交わしたり旅行に行ったり、懇意に想う相手を作ってもいい。  僕は物事をきっちりとこなさないと落ち着かない性格だから、こうしてたまの休日でも蒸し暑い部屋に閉じこもり、夏休み前最後の課題を黙々とこなさないと心底から楽しめないのだ。  それと言うのも僕はこの夏休みを利用して計画している事がある。  単位も成績も落とさずその計画を実行するには、やはり今苦労をしなければならなかった。  質素な生活をしている自分にとって日々の生活は実家の仕送りだけで事足りるし、物の試しに入ってみたサークルの夏休み中に予定されていた旅行なども全て行かないつもりだ。  半年程前から始めたアルバイトで何とか資金も貯まっている。  小さな頃に見たあの一面の向日葵畑と暫く顔を合わせてすらいない幼馴染を思い浮かべた。  ──リン  風鈴の音と共に、開けてある窓から爽やかな風が入ってきて、僕の前髪を揺らした。
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