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時間の流れというものは歳を重ねるに確実に早くなる。
僕にとってこの1週間はそれを痛感させるには充分だったと言えよう。
それほどにこの1週間は早く過ぎていった。
夏休み初日の朝、始発の電車とバスを乗り継いで目的の場所へと僕は少しずつ向かう。
揺れる電車の客席から見る景色は見る見るうちに都会から離れ、ぽつぽつと農家の家が建っているくらいで後は一面中田んぼが広がっている。
瑞々しい野菜が後少しで熟しそうになっているのを見て、そう言えば朝食を食べていなかった事を思い出した。
僕は横に置いてあったリュックからコンビニで購入したおにぎりを取り出す。
一緒に買ったお茶も取り出し、おにぎりにかぶりつきながら、昨日の晩電話越しに久し振りに聞いた幼馴染の声を思い出す。
明日、そちらへ向かうと告げると彼女は幼さの残る声で喜び、「こちらは都会よりもきっと暑いので、日射病に気をつけて下さい」と話していた。
僕よりも君の体調の方が心配だと言うと、彼女は明るい口調で「今年は体調が良いんです」と語っていた。
それを聞いて僕は、そう言えば夏はいつも体調が良いのだと電話越しに話していたこともあったなと思い出す。
──思えば、小さな頃は今よりもずっと元気だった。
寝込むことの方が多かった、と聞いているが少なくとも僕が田舎に遊びに来ていた時は「病弱」とはあまりイメージの結びつかない女の子だったと思う。
太陽のように笑う彼女の笑顔は思わず僕も笑顔になるくらい無邪気で優しくて可憐な笑顔だった。
窓から見える景色を眺めながら少し遅めの朝食を食べ終わると、次は睡魔に襲われる。
目的地はこの電車で終点まで行く必要がある。
まだたっぷりと時間はあるのだ。
瞼の裏に残る、遠い夏の思い出を深く思い出しながら、僕は眠ることにした。
揺れる電車内はとても静かで、始発だからか客足も少ない。
加えて車内には冷房が効いているのか外よりも断然に涼しかった。
少し眠るには絶好だ。
それに、早起きをしたせいか夜ふかしをしたせいか睡眠時間も足りなかった。
心地良い空間に身を預けながら、あっと言う間に僕の意識は、夢の中へと連れこまれていった。
──酷く懐かしい、夢の中へ。
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