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僕が生まれた田舎は、その実育った環境そのものではない。
両親は僕が物心つく前に町を離れ、都会から近い市街に移り住んでいたので、実際には数える程しか訪れた事はないのだ。
それでも数年に一度は夏休みを利用して、僕はその、鮮やかな向日葵畑が印象的なあの町へと連れて行って貰っていた。
山奥にある小さな、村と言ってもいいくらいの場所なので当然住人は、ましてや同年代の子供は少ない。
それでも彼らは一切生活に不自由している様子はなかった。
田舎と言っても、コンビニやスーパーはあるし、少し遠出をすればそれなりに大きなデパートだってある。
住人達は皆心優しいし、昔から馴染のある両親は今住んでいる場所よりも多く笑っていた事を覚えていた。
けれど、それは大人達の話だ。
僕はと言うと、ただただ初めて連れてこられた見慣れない場所に戸惑いを隠せず、借りてきた猫のように両親の隣でジッとしていた。
大人達は昼間だというのにこぞって酒を酌み交わし、思い出話に花を咲かせているが、僕は大人しく出されたジュースを飲み、料理を摘むくらいしか過ごし方が無かったのだった。
そしてやはり顔見知りではない僕は子供達にとって異端でしかないのか、話し掛けてくれる子はいない。
まるで仲間外れにされているような気分だった。
──ふと、横に目をやると僕のすぐ近くに居た女の子は、実に詰まらなさそうに、まるで人形のようにただそこに座っていた。
時折大人達から話し掛けられると笑顔を向けるが、彼女が笑うのはその一瞬だけだ。
真っ白なワンピースと、その長い黒髪の下の端正な顔立ちを俯かせ女の子は黙ってその場に居る。
可愛い娘だと、正直にそう思った。
けれどどこか冷たい印象のその表情は不自然に大人びた雰囲気で近寄りがたい。
同年代の子供は誰もその女の子に話し掛けようとはしなかった。
いや、正確には話しかけたくても、先に述べたその近寄りがたい雰囲気のせいで話し掛けられないのだろう、遠目にチラチラと視線を向けるだけであった。
彼女はこの町の子供では無いのだろうか?
だから、自分の住んでいる場所だと言うのにこんなにも居心地悪そうにしているのだろうか?
そんな考えが頭に浮かぶ。
僕は勇気を出してその女の子に話しかける事にした。
──これが、幼馴染との出会いだった。
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