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最初は恐る恐るだったような気がする。
けれど話しかけてみると意外なほどその女の子は普通の子供だった。
どこか近寄りがたい雰囲気は一切鳴りを潜め、最初は少し恥ずかしがっていた様子の彼女は少しずつ僕と打ち解けていったのだ。
打ち解けた後の僕に対して朗らかに笑うその顔は、大人達に向けていた笑顔よりもずっと愛らしい表情で心臓が高鳴ったことを覚えている。
女の子は色々な話をしてくれた。
まだこの町に越してきたばかりだから友達がいない事。
ふもとの方にある立派なお屋敷が彼女の家であること。
2歳歳下の妹がいる事。
彼女の父親と僕の父親が親友で、よく父親から僕の話を聞いていた事。
だから僕が名前を名乗った時、女の子は凄く驚いていた。
ずっと、いつか会ってみたかったのだと少し興奮気味に話す彼女は先程の冷たい印象とは真逆の、太陽のような女の子だと思った。
やがて僕達は、ここはつまらないからこの場を抜け出し向日葵畑へ遊びに行こうという話になる。
大人達は僕達の事など気にも留めないので場を抜け出すのは呆気ない程簡単だった。
他の子供達の視線だけを振り切りながら2人で騒がしい飲み会場を出て、日が暮れるまで僕達は遊んだのだった。
──そこで目にした鮮やかに咲く向日葵畑を僕は一生忘れないだろう。
僕達はその向日葵達に囲まれながら、考えつく限りの様々な遊びをした。
目に映るもの全てが新鮮で、どんな事でも面白く感じてしまうのが子供の頃の良い所だ。
だから、女の子と遊んだその時間は僕にとってとても楽しいものだった。
──そしてそれは女の子も同じだったようで、夕暮れ時になると女の子は「そろそろお家に帰るね」と名残惜しそうに僕に告げる。
慌てて僕が「また明日も遊ぼう」と言うと大きく頷いてまた笑ってくれた事が嬉しかった。
遠くなっていく女の子が見えなくなるまで手を振り続けた僕はその日初めてこの町に来て良かったとそう思うようになっていたのだ。
明日は何をして遊ぼうか。
どんな話をしようか。
そんな事ばかり考えて、女の子と別れたその時からすぐに明日が楽しみになっていた。
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