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町についたのは朝方だった。
一目散に「M」の家へ駆けつけると、家の周りには人だかりが出来ていた。
──「M」が語った内容はすぐに町中に気付かれてしまい、犯人の一家は逃げるように町を夜逃げし、「M」に暴行をした本人は少年院送りになったと大パニックになっていたのだ。
警察や野次馬で溢れかえり町中全ての人がいるのではないかと言うくらいの人だかりのせいで、とても家に入る事が出来ない。
どうしたものかと途方に暮れている時、「みーちゃん、ですか?」と聞き慣れた声が後ろから聞こえた。
僕を「みーちゃん」と呼ぶのは世界でたった2人しかいない。
声の主は「U」だった。
すぐに事情を察した「U」は僕の手を引き、家の裏庭の大人が入れないような狭い通り道へ僕を押し込んだ。
しばらく狭い道を歩くと「U」がここです、と指をさす。窓があった。
倉庫に繋がる窓のようで、「M」と「U」しか知らない秘密の通り道だという。
「みーちゃんには特別です」とはにかむ「U」は年下だと言うのに随分と綺麗に成長した事を痛感させられる。
けれど、今の僕の頭には「M」の事しか頭に無かった。
彼女が泣いている声を聞いて胸が張り裂けそうになった。
彼女が酷い目にあったと聞いて、倒れそうになった。
彼女の笑顔を汚した奴に、これ以上無い怒りを覚えた。
彼女の会いたいというその願いを聞いて、僕はここまで来た。
どうして、今まで気付かなかったのだろう。
僕はその時ようやく彼女の大切さを理解したのだ。
窓から倉庫に侵入し、彼女達の親が近くにいない事を確認して僕と「U」は一直線に「M」の部屋へ向かった。
部屋の扉を叩く。
暫くして扉を開けた人物は、「M」では無く彼女の母親だった。
「M」の母親は凄く驚いていたと思う。
何故、遠く離れた街にいるはずの僕がここに居るのかと。
僕は一言彼女に会いに来ましたと告げる。
けれど僕が他人だからか、男だからか、それは出来ないとすげなく断られてしまう。
何度頼みこんでも母親は首を縦に振らなかった。
きっと僕では余計に「M」を傷つけてしまうだけだと、そう判断したのだと思う。
──けれど、結果的に僕は「M」に会う事が出来たのだ。
扉の向こう側から小さく、か細い声でハッキリと「M」が、
「みーちゃんを入れてあげて」と言ったからだ。
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