第一章

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「梅扇さんねえさん……これは?」  それは、うちがまだ‘仕込みさん’呼ばれていた頃。 舞妓になる為に祇園に来て、初めて迎えたお正月。 うちのおねえさんである梅扇さんねえさんが、一房の稲穂に素焼きの白い小さな鳩がついた簪を見せてくれた。 「姫花ちゃんは祇園の正月は初めてどしたな。 この稲穂の簪はな……せやな、花街版バレンタイン、と誰かが言うてはったな」  お支度が終わった梅扇さんねえさんはそう言いながら日本髪に結った鬘に、その、稲穂の簪を挿して笑た。  花街版、バレンタイン? 首を傾げたうちに、梅扇さんねえさんが意味ありげに微笑んだ。 「この簪で御贔屓の旦那はんか、意中の旦那はんと‘恋の駆け引き’をするんえ」  あの時のねえさんの艶っぽい微笑に、うちは同じ女やのにドキンとしたのを、今でも覚えとる。  
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