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追われていた。何故だがわからないが追われていた。
いや、正確には過去形ではない。追われている――少年、ウィスタリア・ジークフリートは今追われている。発端、原因、理由といった諸事情はある。
だがしかし、とにかく今の彼には逃げ切ることが最優先だった。得体のしれない、迫りくる危機から逃れようと必死だった。
理由。
そんなもの、彼にもわからないのだ。
追手は二名。露出が極めて少ない白装束。彼らが何者かはよくわからないが、時折叫ばれる言葉をかいつまむ限り、カルト集団のようだ。白装束のローブは足元まであり、こちらからはフードで目が見えない。視界は狭そうだ、そのうえ非常に動きにくいのではないかと思われる。
しかしその二名、ウィスタリアを捕らえようとどこまでもしぶとくついてくる。意外にも俊敏な動きである。
追われてどれくらい時間が経つのか。息もさすがに上がってきた。
閑静な農村にいきなり押しかけてきたかと思えば、いきなり追い回されている。意味が分からない。
ウィスタリアは土地勘のある森の中へと誘導して撒いてしまおうと思った。だが、木々と身体がこすれる音がして、そううまくもいかない。
「どーにかしねえと……」
「いたぞ! あの奥だ!」
「やばっ」
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