第2リハビリ

6/27
前へ
/122ページ
次へ
    ―お隣の菅さん。 それは、半年前に越してきた新婚夫婦だ。 でもごく最近離婚して、ご主人だった男性は家を出て行ってしまった。 離婚した理由は……。 「あ、里子、悠一くん、お帰りー! 早く上がってこっちにいらっしゃーい!」 リビングから顔を覗かせた母の声に、私はハッと我に返った。 そうだ、今は余計なことを考えている場合じゃない。 私には大切な大切なお客様がいるんだった。 「どうぞ」 なんとなく照れながらスリッパを促すと、黒川くんはいつものように丁寧に靴を並べて上がった。 菅さんの靴との距離は、すぐ隣でもなく、はるか遠くでもなく。 この辺りにも、ちょっとした彼の気遣いを感じるのは、なぜだろう。 私が前を歩くから、黒川くんの様子は分からない。 どうか、どうか良い印象を持ってくれますように。 「あ! 悠一くんいらっしゃい! 初めまして、里子の母でーす! いやーん、里子が虜になるわけよー!」 ……。 やめてお母さん。 満面の笑みでリビングの床から腰を上げた母は、ササッと私達に近寄って、それからソファを振り返った。 私もつられてソファを見ると、中腰の菅さんと目が合った。 「こんにちは、菅さん」 慌てて挨拶する。 すると菅さんも、中腰から明確に立ち上がって頭を下げてくれた。 「菅さーん、こちら、里子の彼氏の黒川悠一くん。里子ったら、部屋中のモノ全てに『悠一くん』って名前つけてるくらいゾッコンラブなのー」 「お母さん!」 「だって本当じゃない」 「……」 まあ、本当だけどさ……。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

161人が本棚に入れています
本棚に追加