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クーハンの中には、柔らかそうな毛布にくるまれた、ざんばら頭の人形がいた。
青い目は見開かれ、固そうな頬にはそばかすのような点々が描かれている。
どうりで今まで気付かなかったわけだ。
これでは、泣いたり唸ったり出来ないもの。
「……お、お母さん……」
「可愛いでしょー? 菅さんの大事な赤ちゃんなんだから。今はぐっすり眠ってるようねー」
「お母さん……」
本物の赤ちゃんを愛でるような母の様子に。
それきり私には、なにも言えなくなった。
と、肩に何かが乗った。
添えられるような暖かみある感覚に振り返ると、黒川くんがすぐ背後に立っていた。
彼の大きな優しい右手が、まるで自己主張するかのように多くを語っていた。
そうだ。
もう、会ったし、見たんだもんね。
「……お母さん」
「なあに?」
「黒川くんに、菅さんのこと話してもいい?」
「そうねえ。どうせ後日あんた達の間で話題になるなら、今話した方が正しく伝わるわよねえ」
それは確実に言えること。
後日というより、私の部屋に移動したらきっと、黒川くんは私に訊ねてくるはずだもの。
そして、これも母のいう通り。
私には、正しく伝える自信がない。
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