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元の位置に座り直した私達は、母の口から菅さんの話を聞いた。
黒川くんにとっては初めての。
私にとっては、改めての。
その内容は、私の知っていた事に加えて、知らなかったこと、誤って捉えていた事も沢山あって。
やはり、母から正しく聞いて良かったのだと思った。
―赤ちゃんを失った現実は、元々控え目だった菅さんを、更に日陰にした。
それは、ただ単に『現実』が原因なだけではなく。
日陰に入り込んでくる厳しい暴風が、主だったと母は言う。
「世の中にはねえ、あ、というより、人の大多数はねえ、事が起きればその『原因』を知りたがるのよ」
それを聞いた黒川くんが、黙ってはいたけれど、ほんの少しだけ表情を動かした気がした。
黒川くんは母のあの言葉で、先をほぼ正しく読んだんだ。
「幸いなことに、旦那さんは優しかったの。自分がもっと育児を手伝っていればって。菅さんを責めることはなかったのね。でも、旦那さんの家族の方は、そうはいかなかった」
一番きつかったのは、旦那さんのお母さん、つまり、菅さんのお姑さんだったらしい。
「菅さんが負った傷はまだ新鮮そのもの。かさぶたすら出来ていない。ドクドク血が溢れ出てる頃よ。そんな傷口の上にね」
お姑さんからの攻撃は昼夜を問わなかった。
母親失格から人格否定に発展した。
人殺しと罵られ、離婚を迫られた。
菅さんは素直に非を認めて、離婚を承諾した。
でも旦那さんは頑として離婚を受け入れず、必死になって菅さんを守った。
「大恋愛の末の結婚だったらしいのよね。素敵よねー」
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