第2リハビリ

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  これは知らない事実だった。 菅さん夫妻が大恋愛の末に結ばれた。 旦那さんが菅さんを守っていた。 旦那さんは離婚を拒否していた。 でも実際は、家を出て行ってしまっている。 その理由なら、私も知っている。 「いくら旦那さんが優しくても、どれだけ愛してくれていても、風が止まなきゃ、それ以上の回復は無理なのよね」 菅さんの精神の中枢を締めていたネジは、事故でガクンと弛んだ。 強風に煽られる度に、ネジは徐々に弛んでいった。 突然ではなかったんだ。 菅さんの中ではゆっくりゆっくり進行していた。 ゆっくりゆっくり、ネジは逆回転していた。 「そんなある日。菅さんが壊れてしまったの」 「壊れる」と、母の言葉の後に黒川くんはハッキリ繰り返した。 訊ねる訳でもなく、驚愕するでもなく。 まるで書かれた文字をなぞるように、繰り返した。 「そう。言動がおかしくなってしまったの。まずは、赤ちゃんの名前を呼びながらお腹を撫で始めた」 一番驚いたのは旦那さんだった。 亡くなった赤ちゃんの名前だったから。 「ほらあなた、今お腹を蹴ったわ。とっても元気な子よ。生まれてくるのが楽しみだわ」 本当に嬉しそうにお腹を撫でる菅さんを、旦那さんは見ていられなくなった。 菅さんのネジは、完全に抜け落ちてしまったんだ。
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