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10月。
秋の1日を終えたこの街が迎える夕暮れが好きだ。
休まず回り続ける地球上のこの場所が、太陽に一時の別れを告げる瞬間。
街は黄金色に輝いて、キラキラと美しい。
海に溶け込むのではなく、山間に吸い込まれるのでもなく。
ここから見えるのは、縦長のビル群に隠れ消えていく夕日だけれど。
輝きに目を細め見送った後には、セピアに染まる街がある。
秋に人恋しさを感じるのは、このひとときに違いない。
誰も待っていないかもしれない、古びた我が家にでさえ。
早く帰りたいと思うのだから。
最近のんびり家路を歩いていると、およそ同じ時間帯に、『ミカササトコ』を見かける。
駅から電車で帰宅するらしく、友人と二人並んで構内に入っていく姿。
向こうはこっちに気付いている。
大抵後ろから追い付くこちらを、駅に着いたと同時に必ず、遠慮がちに振り返るから。
目が合うと慌てて反らす様は。
まるでこちらに、『見てしまってごめんなさい』と謝っているかのようだ。
名前を覚える以前は、平然と無視していた。
知らない人でなくなった今は、とりあえず目だけで挨拶する。
『じゃあな』、と。
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