第2リハビリ

27/27
161人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
  緊張で口が渇いた。 「それでも俺は」 乗客の疎らなバスの中でさえ、なかなか聞き取れない落ち着いた囁くような声が、私の目を見て紡がれる。 次の言葉のために、ゆっくり口元が開いたのと同時に、 『次はW大学前ー、W大学前ー。お降りの方は押しボタンでお知らせくださいー』 車内に響いた音声で、黒川くんの言葉はいとも容易くかきけされた。 「……」 唖然とする私をよそに、黒川くんはさっさと窓際の押ボタンを押した。 前方で『次、停車致します』のランプが点灯する。 それを眺めながら、私はふっと苦笑しつつも、降りる支度を始めた。 「聞こえたのか?」 「いえ全く」 「もう一度言うべきか?」 「大丈夫、昨日と今日で心変わりしてないなら」 「ああ、それはない」 「うん、なら大丈夫」 私は笑顔で、愛しい人の右手を自ら握り締める。 一緒にバスを降りるために。 そして、心から祈ろうと思った。 どうか、いつの日か。 菅さんの元へ、旦那様の想いが届きますように。 ー完ー
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!