第3リハビリ

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    「ねーねーみんな見て見て見てー!!」 じゃじゃーん! とかいう芸のない効果音と共に、それぞれ好きな所で寛いでいる仲間に右手を掲げたのは、親友の親友だ。 名前は橘勇也。 勇ましいと書くらしいが、性質は全くもって勇ましくも何ともない優男で、真っ赤な髪の毛に片耳ピアスの、女受け抜群なカワイコちゃんだ。 お前は口から生まれてきたな!? と、これまた芸のない突っ込みが欠かせないほどよく喋る。 そしてよく笑う。 バカ笑いする。 誰に対する突っ込みにも容赦がなく、穏和な口調のようで実は一番キツイ性格ってことは、ここに通い始めてすぐ分かった。 言い方は悪いが、裏と表がハッキリ分かれていて。 二重人格と言っても過言じゃないほど、時に違う顔を覗かせることがある。 仕事柄、そりゃ数え切れないほどの老若男女と会話を繰り広げてきた。 橘みたいなタイプは、案外よく遭遇する人種のひとつと言ってもいい。 周囲に合わせて無難に溶け込んで、明るく仲良くやっているようでいて、その実、スッと背けた顔に浮かぶ表情は冷めている。 形成されたサークルのギリギリ端、ラインの上に立っている。 怖いのは、あくまでラインの上であって、決して中には入らない位置だということ。 もしもサークル内で揉め事や事件が起きたなら、橘は穏やかな口調で取り調べに応じるだろう。 自分が見ていた総ての事を、淡々と、包み隠さず、誰をも守らず陥れもせずに。 こいつは、敵に回すと最も恐ろしい人間なのさ。 そんな、なかなか素性を出さない広く浅い付き合いを好む橘が、ズボッと深みにはまってしまった狭い場所が、ここだ。 『ここ』というより、この家の主だ。 この手の人間は、一度信じた対象への執着が凄まじい。 捕らえて離さない。 俺の素性を見たからには最後まで責任をとれと言わんばかりに、とりつく。 とりつくんだ、本当に。 憑く。これだ。 一度足をサークルに踏み入れたら、自身の全てをそこに捧げる。 そういう点で橘は、味方につければ最強の人間だ。
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