161人が本棚に入れています
本棚に追加
「ねーねーみんな見て見て見てー!!」
じゃじゃーん! とかいう芸のない効果音と共に、それぞれ好きな所で寛いでいる仲間に右手を掲げたのは、親友の親友だ。
名前は橘勇也。
勇ましいと書くらしいが、性質は全くもって勇ましくも何ともない優男で、真っ赤な髪の毛に片耳ピアスの、女受け抜群なカワイコちゃんだ。
お前は口から生まれてきたな!? と、これまた芸のない突っ込みが欠かせないほどよく喋る。
そしてよく笑う。
バカ笑いする。
誰に対する突っ込みにも容赦がなく、穏和な口調のようで実は一番キツイ性格ってことは、ここに通い始めてすぐ分かった。
言い方は悪いが、裏と表がハッキリ分かれていて。
二重人格と言っても過言じゃないほど、時に違う顔を覗かせることがある。
仕事柄、そりゃ数え切れないほどの老若男女と会話を繰り広げてきた。
橘みたいなタイプは、案外よく遭遇する人種のひとつと言ってもいい。
周囲に合わせて無難に溶け込んで、明るく仲良くやっているようでいて、その実、スッと背けた顔に浮かぶ表情は冷めている。
形成されたサークルのギリギリ端、ラインの上に立っている。
怖いのは、あくまでラインの上であって、決して中には入らない位置だということ。
もしもサークル内で揉め事や事件が起きたなら、橘は穏やかな口調で取り調べに応じるだろう。
自分が見ていた総ての事を、淡々と、包み隠さず、誰をも守らず陥れもせずに。
こいつは、敵に回すと最も恐ろしい人間なのさ。
そんな、なかなか素性を出さない広く浅い付き合いを好む橘が、ズボッと深みにはまってしまった狭い場所が、ここだ。
『ここ』というより、この家の主だ。
この手の人間は、一度信じた対象への執着が凄まじい。
捕らえて離さない。
俺の素性を見たからには最後まで責任をとれと言わんばかりに、とりつく。
とりつくんだ、本当に。
憑く。これだ。
一度足をサークルに踏み入れたら、自身の全てをそこに捧げる。
そういう点で橘は、味方につければ最強の人間だ。
最初のコメントを投稿しよう!