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「ついに俺もスマホデビュー果たしたよっ!!」
家主でもないくせに偉そうに、ソファの中央からわざわざ360度回転して右手のスマホを披露する橘だが。
俺は仕事柄、携帯電話に関しては常に先端の機種を手にしている。
今やスマホひとつで様々な情報を入手出来るし、情報を保管しておくことも可能だ。
つまり、橘が今さらスマホを見せびらかしても、俺にはどうでもいいってわけだ。
「わー! 先輩すごいじゃんっ!」
まず身を乗り出したのは俺の予測通り、親友の弟だった。
こいつの名前は黒川伸一。
特に何も言うことはない。
『理想の息子』と『理想の彼氏』、ついでに『理想の兄弟』を絵に描いて額に飾ったような青年で、非の打ち所がない。
敢えて言うなら、あまりにも片寄った『崇拝者』だという点か。
こいつはもう、実の兄貴を現人神として崇め奉り、足元にひざまづいてご指導を待っている有り様だ。
忠実なるしもべってやつに違いねえ。
「どれどれ見せてー!」
本心から興味深そうに橘の手元を覗き込む弟とは対照的に。
テーブルを隔てたソファの真向かいの座椅子にふんぞり返っているのが、俺の親友、黒川悠一だ。
やつの横目の寒々しいこと寒々しいこと。
あの切れ長の目からは、見えないレーザービームが真っ直ぐ伸びていて、それに触れると細胞ごと破壊される。
この世の中に、あのビームを受けて無事でいられる者は、もはや指折り数えるほどしか存在しない。
その数名こそが、ここに集いし俺たちってわけだ。
「ほら兄貴見てよっ! 滑ってる滑ってる! ちょっと指動かしただけでスイーーーって!」
「お前の人生そのものだな」
「ひっどーーーい!!!」
「俺が指を数ミリ動かしただけで、右にも左にも右斜め上にも左斜め下にも滑って行くだろうが」
「ひっっっどーーーーい!!!!!」
「ぎゃはははははははははーーー!!」
始まったいつもの兄弟喧嘩を、床に敷いた座布団にキチンと座ったお姫様が、苦笑いで見守っている。
この謙虚で慎ましい姫こそが、親友黒川の彼女、三笠里子嬢だ。
姫の存在は天地無双。
唯一無二の存在。
世界中の何処を探求しても、このポジションにおさまる者はいない。
尋常じゃないのさ、姫が及ぼす黒川への影響は。
黒川を生かすも殺すも、姫にかかっていると言えるだろう。
あな恐ろしや。
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