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思わずスマホを落としそうになった俺の前で、黒川と橘は「何を今さら」という顔をする。
「こいつにゲームをする暇があると思うか? スマホの画面をなぞっている時間があるなら、彼女とイチャイチャしているだろ」
「だねー。千佳には会いたくても会えないから会わないんだもーん。会えない理由は忙しいからだもーん。忙しい理由はここに来るからだっもーーーっん!」
「なら先輩、ここに来てゲームするとかは?」
「っはああー?! なんで悠一をからかいに来てゲームしなきゃなんないわけ?! ゲームしてて悠一とじゃれあえるわけぇ!?」
具体的内容は耳を塞ぎたくなるほどめちゃくちゃだが、俺は歓喜に震えていた。
攻められている立場の弟さえ、どこか満足げな笑みを浮かべている気がするのは、あまりに都合の良すぎる解釈か。
「うーん、私もいずれはスマホにするけれど、ゲームは無理ね」
鹿爪らしい表情で姫が唸る。
「なぜ」
「橘くんと全く同じ理由」
「お前はここに俺をからかいに来ているのか」
「なぜそこだけを抜粋するの」
「ならば他所に男がいるのに俺をからかいたいがためにそちらを放置してわざわざ来ていると?」
「あ、そっか、そうなるのか」
「そうなのか?」
相変わらず、照れ隠しでボケているのか真剣に過ちを犯しているのか分からない黒川の反応と姫の応答だ。
慣れているのでハラハラするどころかむしろ「ごちそうさま」の気分だが。
「最近の町中の様子見てみなよー」
橘が披露し終えたスマホをガラステーブルに置いた。
カチンと控えめにガラスが鳴る。
その音源に皆が視線を落とした。
「歩いてる人も立ち止まってる人も、みーんな俯いてスマホいじってる。おかしな光景だと思わない? 喫茶店とかレストランとかでもさ、あれ、ホラーだよ?」
ソファの上で胡座をかき、腕を組んでスマホを見下ろす橘の口調は、既に怒りに近かった。
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