第3リハビリ

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  喫茶店やレストランで向かい合って座るグループが、俯いてひたすらスマホの画面を睨んでいる。 会話はない。 聞こえてくるのは個々の舌打ちや絶叫だ。 町行く若者は前を見ないで、スマホを見下ろしながら器用に歩く。 ぶつかりそうになっても謝らない。 なぜなら相手もスマホを操作しているからだ。 互いが互いを見向きもしない。 ああ。 こんな日常を目の当たりにしちゃあ、俺は嘆き悲しんでいる。 確かにゲームは楽しいだろうよ。 それを介して会話が弾むって場合もあるだろうよ。 しかし、大半はそうじゃない。 後輩の資料の中には、目も当てられない中毒者のインタビュー記事がいくつもあった。 家の中では母親も父親もスマホゲームに夢中。 幼い子供はほったらかし。 当然夫婦の会話はありゃしない。 どうした日本。 俺の愛してやまない国から、コミュニケーションが失せつつある。 現実を楽しまず、スマホの中で生きている。 そうはなるな若者たちよ。 一度きりの人生を、その足で冒険しろ。 そうはなるな子の親たちよ。 我が子の言葉に耳を傾け、我が子の目を見て会話しろ。 今俺の目の前にいる4人の若者たちのように。 「……おっさん。何を小難しい顔している?」 「あーん? この国の行く末を案じてたんだ」 「あんた何様だ?」 「えーっとだな、殿様?」 やだオヤジギャグさむーい! 叫びながら橘にのけ反られるが、この際どうでもいい。 オジサンは君たちに質問があるのさ。 「なあ橘よ」 「えー? なあにー?」 「お前さんも、ガキの頃はテレビゲームにハマったくちか?」 俺の問いに、橘はキョトンと動きを止める。 それから視線を天井に移して、「懐かしいなぁ」と呟いた。 「ハマった頃もあったねー。昔はさ、ハードをテレビに接続しなきゃ、ゲームなんて出来なかったでしょ? だからお気に入りのソフトがあっても、外出時には絶対に遊べなかったわけ」 「確かにな」
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