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「……あ、ちょっと、ねえ黒川くん!」
「はい?」
「こないだ課題で書いてもらった俳句。なんだかあなたらしくなく、稚拙だったと思うんだけど」
古典の授業の終了後、真中が真顔で迫ってきた。
こないだの俳句……。
……ああ。
「あまり俳句は得意ではないので」
これは真実だ。
短い言葉で風情を表す技は、あいにく持ち合わせていない。
「そんなことないわ。過去のあなたの作品は、季語もそれ以外も、とにかく全ての単語が芸術なのに」
「大袈裟です。現に今回は稚拙だった。書けば全部が先生の心に響く訳じゃない。その程度のセンスです」
「そーお? なんか納得いかないわね。なんていうか、喉に骨がつかえた気分なんだけど……」
「その固執は理解しかねますが」
「だって、季語はそのまま『すすき』だし、夕暮れって単語もあなたなら他にもっと違った表現が……」
なかなかしつこい、さすがは真中だ。
「……凝った言葉や飾った単語は」
彼女には、
「似合わないと思ったので」
「え?」
「いえ、なんでも。とにかく俳句は苦手です」
きっぱり言い切ると、それでもまだしぶしぶの風情で真中は教室を出て行った。
席に戻って、窓から外の景色をゆったり眺める。
今日も清々しい秋晴れ。
また帰りは、黄金色に光輝くのだろうか。
そして、追い付けるだろうか。
振り返るだろうか。
夕暮れに 染まるすすきと きみの頬。
―完―
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