第3リハビリ

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  「だからかなー。ゲームするためには、家に帰らなきゃなんないわけ。その分、やっとテレビの前に座れた時のワクワク感とか半端じゃなくて、最高に楽しかったんだよねー」 「集まった友達と一緒にテレビ画面眺めて盛り上がれるしね」 「……黒川家ではテレビゲームなんか許可されてたのか?」 「ううん。俺は友達の家に集まる派。ドラクエなんか、見てるだけで楽しかったよ?」 「黒川は?」 「俺にそんな暇があったと思うか?」 腕組をする色男は、苦い思い出をそこに見るかのようにスマホを睨む。 この家に通うようになって、俺も少しは兄弟の親の事を知った。 どうやら『黒川悠一』を造ったのは父親で、母親の影響はかなり少なかったということ。 かなり教育熱心な父親で、勉学から思想、そして黒川に至っては合気道を仕込み、防御の術を極めさせたこと。 人生を全力で無駄なく生きることを、しっかりと教えている。 もしも彼が生きていたなら、取材がしたかった。 黒川を造ったこと自体が、彼の功績だと俺は思うから。 「でも英語に出会ってからは、全く興味なくなっちゃった」 「なるほどな。伸ちゃんは?」 「俺は更羅と付き合い始めたら、ゲーム見に行く1分1秒も惜しくなったから」 「はーいはい」 このカップルはあまりに安定し過ぎて物足りない。 しかしまあ、そういうことだろな。 要はいかに『今』が充実しているかってことだ。 いかにスマホをいじる時間がないかってことだ。 「あのー、水野さん」 「んー?」 姫に呼ばれて優しく振り返る。 俺は彼女が好きだ。 タイプだ。 ドストライクだ。 黒川が憎い。 「水野さんは、ゲームを悪だと主張するんですか?」 悪、ね。 「そこまでは言わないよ。ただし、スマホゲームは悪だ。あれは中毒になるとたちが悪い。最初からやらないほうがいい。そのうち金を使い始める。特に男は、競うことにかけてはもはや本能だからな。他人と繋がるぶん、負けてなるものかってな闘争本能に火がつくわけだ」 そうなると、無料で始めたゲームに課金を重ね、空想世界に無駄金をばらまく。 「この間受けた依頼に、似たようなのがあったな」 「うん」 兄弟が揃って渋い顔をした。
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