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「だからかなー。ゲームするためには、家に帰らなきゃなんないわけ。その分、やっとテレビの前に座れた時のワクワク感とか半端じゃなくて、最高に楽しかったんだよねー」
「集まった友達と一緒にテレビ画面眺めて盛り上がれるしね」
「……黒川家ではテレビゲームなんか許可されてたのか?」
「ううん。俺は友達の家に集まる派。ドラクエなんか、見てるだけで楽しかったよ?」
「黒川は?」
「俺にそんな暇があったと思うか?」
腕組をする色男は、苦い思い出をそこに見るかのようにスマホを睨む。
この家に通うようになって、俺も少しは兄弟の親の事を知った。
どうやら『黒川悠一』を造ったのは父親で、母親の影響はかなり少なかったということ。
かなり教育熱心な父親で、勉学から思想、そして黒川に至っては合気道を仕込み、防御の術を極めさせたこと。
人生を全力で無駄なく生きることを、しっかりと教えている。
もしも彼が生きていたなら、取材がしたかった。
黒川を造ったこと自体が、彼の功績だと俺は思うから。
「でも英語に出会ってからは、全く興味なくなっちゃった」
「なるほどな。伸ちゃんは?」
「俺は更羅と付き合い始めたら、ゲーム見に行く1分1秒も惜しくなったから」
「はーいはい」
このカップルはあまりに安定し過ぎて物足りない。
しかしまあ、そういうことだろな。
要はいかに『今』が充実しているかってことだ。
いかにスマホをいじる時間がないかってことだ。
「あのー、水野さん」
「んー?」
姫に呼ばれて優しく振り返る。
俺は彼女が好きだ。
タイプだ。
ドストライクだ。
黒川が憎い。
「水野さんは、ゲームを悪だと主張するんですか?」
悪、ね。
「そこまでは言わないよ。ただし、スマホゲームは悪だ。あれは中毒になるとたちが悪い。最初からやらないほうがいい。そのうち金を使い始める。特に男は、競うことにかけてはもはや本能だからな。他人と繋がるぶん、負けてなるものかってな闘争本能に火がつくわけだ」
そうなると、無料で始めたゲームに課金を重ね、空想世界に無駄金をばらまく。
「この間受けた依頼に、似たようなのがあったな」
「うん」
兄弟が揃って渋い顔をした。
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