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「いいか? 俺はあんたの不正を見逃すわけにはいかねーのさ。学生はみな平等だ、そうだろ? あんたがいくら成績優秀者でも、特別扱いはよくない」
神辺貢は、重厚な栃の1枚板を挟んだ向こう側に座る美しい青年を、舐めるように眺めた。
男にしておくには勿体無いと、貢は本気でそう思う。
どこか中性的で優美な物腰の青年は、学内に蔓延する噂通りの、類い稀なる容姿の持ち主だ。
これが女だったら力ずくでも自分のものにするだろうと。
必ず手に入れるだろうと。
貢には、そういった出所の分からない不明瞭な自信が、常に全身にみなぎっているのだ。
「で、俺にどうしろと」
青年がようやく声を発した。
実のところ貢はイライラしていた。
自分が何者かを告げた時も、その上で脅迫した時も、青年は顔色ひとつ変えなかった。
眉ひとつ動かなかった。
およそ感嘆や驚愕や恐怖などといった表情も息遣いも、一切表に出てこない。
一体いつになれば、あの真一文字の口が『謝罪』を絞り出すのだろう。
今までの経験で、人が何を言えば不快に感じ、屈辱に顔を歪めるか、貢は心得ていた。
目の前にいる青年も、十分の題材を揃えていたぶった。
それなのに、動かない。
じれったい、腹立たしい。
自分が収集した情報に誤りがあったのだろうか。
いや、そんなはずはない。
苛立ちがピークに達しかけた矢先に、ようやく青年が言葉を発したのだ。
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