第4リハビリ 【黒川悠一、人生初、誰かに敗ける日?】

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  ◇◇◇◇◇ 「お手上げだな」 黒川悠一は、ソファーに落ちると同時に手持ちの書物を投げ出した。 ガツンとガラステーブルの上に落下した数冊の書物は、角が微かにずれただけで、悠一の手の中にあった時のまま、重なった状態を維持した。 もっとも、彼の口からそう聞いて、本当に『お手上げ』なのだろうと思う者はいない。 何かに書かれたその文字を、「読みなさいと言われたので読みました」という程度の棒読みだ。 だから彼の友人、橘勇也は、最初は笑い飛ばした。 「なーにー? 今度は一体どんな名誉を与えられたわけ? 理事長室に呼ばれるなんて、もしかして次期理事長とか」 「俺が呼ばれたのは理事長室じゃない。そもそもW大には理事長がいない」 「え? そうなの? だって理事は何人かいるでしょ? 彼らの長は何者? 学長?」 「学長もいない」 「えー、ならお前どっから呼び出し食らったの?」 「総長室だ」 「大隈重信に呼ばれたのっ?!」 「彼はもうこの世にいない」 冗談にも生真面目に返す悠一に、勇也は一瞬苦笑めいた表情を浮かべるが。 深めにからかう以前に、まずは興味が勝った。 「総長って、だってそれ、正真正銘大学のトップでしょ? いくらお前が凄いったってさ、なんか胡散臭くない?」 「俺が会ったのが誰か聞けば、臭さは倍増するぞ」 「……やーな予感……」 座椅子に胡座をかいていた勇也は、さっと両膝を立てて両腕で抱え込む。 極寒の地で凍える犬のようにわざと全身を震わせてから、これまた犬が主人の機嫌を窺うように上目使いで悠一を見た。 「お孫さん?」 「いや、お息子さん」 「ひえーーーーーーー……」 更なる悪寒が勇也を襲った。   
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