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【ゼミ進行の不正】
メールは淡々と続いた。
【構内暴力】
文章というより、単語が1つずつ。
いちいち送信する相手の手間を、労う気など悠一には少しもない。
合計で5回振るえた後、携帯はようやく静かになった。
悠一は動かなかった。
手元の携帯から目を離す。
送信者の意図を探ることに、意識を集中させた。
【黒川悠一の不正】を、本人である自分に暴いてもなんら意味はない。
これは単なる誇示で、最初から優位に立つための札の披露だろう。
これらの情報を暴くことで、悠一を貶めることが可能な存在が、送信者の身近にあるということか。
悠一はベンチで優雅に長い足を組んだ。
徐に左手を顎に添える。
携帯を握り締めた右手は、ベンチに放置したまま。
ではなぜ、自分より優位に立つ必要がある?
顎に添えた左手を、今度はゆっくり額に上げた。
そして天空を見上げる。
「……心当りが多すぎてさっぱり分からない」
灰色に濁った曇り空へ向け、小さく小さく溢した。
容易に推測出来ることは、送信者がこの大学の人間だということだけだ。
学生でなくとも、教授の可能性もあれば、事務関係の人間という線も有り得なくない。
メールで届いた【不正】の内容は、全て大学構内で起こった、或いは現在進行中のものであるから。
悠一は天を見上げたまま思考する。
大学では高校時代と比べて、本当に可愛いげのある人間でやり過ごしていると、そう思っていたのは誤りだったのだろうか。
悠一の容姿は、これまであらゆる環境で異性の気を独占し続けていた。
恨みを買うというならば、その路線が最も確率の高い『原因』なのだろう。
しかし、と悠一は自らの疑念を一蹴する。
その場合の恨みに対する復讐は、【不正】などを人質にしない。
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