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復讐を企てるほどの屈辱を味わった場合、人は往々にして、相手に同種の屈辱を求める。
恋人を奪われたならば、相手にもそれと同等の『大切な存在』の喪失を求める。
今悠一から奪われようとしているものは、W大における彼の『自由』。
残された学生生活を鑑みると、下手に奪われれば支障を来す、悠一にとって大変貴重な『自由』だ。
それと同等のものを、過去に誰かから奪った。
「覚えはない」
そう断言してから、額の左手を下ろした。
そして右手の携帯を正面に上げる。
連なる着信履歴の中から1つ選んで押した。
「……ああ。悪いが今日はそっちに行けない。用事があるから先に家に帰る。それから、日程が終了次第俺に連絡しろ。それまで絶対に一人になるな。じゃあな」
一旦耳から離した携帯を、素早くボタンを操作して再び耳に戻す。
しばらくして返ってきた留守番電話通知に、悠一は淡々とメッセージを残す。
「……俺だ。聞いたら連絡しろ。以上」
また同じ動作を繰り返し、同じく戻ってきた留守番電話通知に眉間に皺寄せながらも、同様のメッセージを残した。
そしてようやく携帯を下ろす。
念のため、向こうの手に回れば身動き出来なくなるものは、今のうちに回収しておく必要がある。
恋人も、親友も、弟も、今から守れば遅くはない。
「来るなら来い」
悠一は携帯を睨んだ。
まるで悠一の声が届いたかのように、携帯が振るえた。
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