第4リハビリ 【黒川悠一、人生初、誰かに敗ける日?】

10/80
前へ
/122ページ
次へ
    憎しみでぶつかってくる相手の気持ちは、辛うじて理解出来る。 納得は出来ないが、憎しみの意味は分かる。 何かが、何処かが、悠一とは明らかに劣っている事に対する嫉妬や怒り。 それはいつも単純なもので、しかし、悠一のせいでは決してないものだ。 だから全力で抗う。 売られた喧嘩は買う。 手加減はしないし、戦意を根こそぎ奪う。 しかし今目の前にいる男には、悠一に対する憎しみが一切ない。 あるのは、優越感のみだ。 「俺が何者か気になるだろ」 部屋に入るなりソファに腰を埋めた青年は、悠一に向かって小首を傾げた。 反応を待つ素振りもなく、その視線を顎ごとデスクへ移す。 それは明らかに悠一を誘導していた。 「あんたならもう察しがついてんだろ。俺は神辺貢。W大学第53代目総長、神辺勲の三男だ」 やはり身内か、と悠一は内心で舌を打った。 しかし三男とは、随分中途半端な位置である。 総長たる地位が果たして世襲制なのかは謎だが、それにしても。 「さて、あんたがここへ来たのは、実に賢明な判断だったと思うよ」 神辺は薄い笑いを張り付けたまま、悠一をソファへ手招きした。 不本意ではあったが、素直に従う。 これから先の長期戦に備えてだ。 「俺がさっきメールで送った不正なんか、可愛いもんだ。あんたに関しては、もっと面白い事を知ってるよ」 もっともこれは、不正じゃなくてミラクルだけどな。 そう愉快げに付け加えられた言葉に、悠一はおぞましいほどの嫌悪感を覚えた。 「あんた、凄いんだってな。こうやってなに食わぬ顔で学生やってながら、裏では神様みたいな奇跡を起こしてるって」 神。 滑稽な単語だ。 「なんでも、タイムスリップ出来るんだって?」 悠一の背筋にひたりと冷たい空気が貼り付いた。 他人からは決して目に入らない位置。 でも確実に、悠一には体感出来る冷気だ。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

161人が本棚に入れています
本棚に追加