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憎しみでぶつかってくる相手の気持ちは、辛うじて理解出来る。
納得は出来ないが、憎しみの意味は分かる。
何かが、何処かが、悠一とは明らかに劣っている事に対する嫉妬や怒り。
それはいつも単純なもので、しかし、悠一のせいでは決してないものだ。
だから全力で抗う。
売られた喧嘩は買う。
手加減はしないし、戦意を根こそぎ奪う。
しかし今目の前にいる男には、悠一に対する憎しみが一切ない。
あるのは、優越感のみだ。
「俺が何者か気になるだろ」
部屋に入るなりソファに腰を埋めた青年は、悠一に向かって小首を傾げた。
反応を待つ素振りもなく、その視線を顎ごとデスクへ移す。
それは明らかに悠一を誘導していた。
「あんたならもう察しがついてんだろ。俺は神辺貢。W大学第53代目総長、神辺勲の三男だ」
やはり身内か、と悠一は内心で舌を打った。
しかし三男とは、随分中途半端な位置である。
総長たる地位が果たして世襲制なのかは謎だが、それにしても。
「さて、あんたがここへ来たのは、実に賢明な判断だったと思うよ」
神辺は薄い笑いを張り付けたまま、悠一をソファへ手招きした。
不本意ではあったが、素直に従う。
これから先の長期戦に備えてだ。
「俺がさっきメールで送った不正なんか、可愛いもんだ。あんたに関しては、もっと面白い事を知ってるよ」
もっともこれは、不正じゃなくてミラクルだけどな。
そう愉快げに付け加えられた言葉に、悠一はおぞましいほどの嫌悪感を覚えた。
「あんた、凄いんだってな。こうやってなに食わぬ顔で学生やってながら、裏では神様みたいな奇跡を起こしてるって」
神。
滑稽な単語だ。
「なんでも、タイムスリップ出来るんだって?」
悠一の背筋にひたりと冷たい空気が貼り付いた。
他人からは決して目に入らない位置。
でも確実に、悠一には体感出来る冷気だ。
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