第4リハビリ 【黒川悠一、人生初、誰かに敗ける日?】

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      「……んーー、なるほどねー……。まあ言ってみればそのミツグくんって子の頭は物凄ぉぉぉーーーく……」 「……」 「単純ってことだよね」 長く溜めた後の橘勇也の呆れ顔に、悠一は真顔でひとつ大きく頷いてみせた。 神辺貢の依頼はこうだ。 貢の実の父親、現総長の神辺勲は、今年に入った春に体調を崩した。 検査の結果は、ストレスや疲労の蓄積による肉体的及び精神的なガタ。 それを受けた神辺勲は、総長の座を息子に譲る決意をした。 彼の息子3人のうち、次男の衛は海外を拠点に芸術の道を右往左往しているため、対象にはならなかった。 手っ取り早く頂に立つことの出来る総長の座は、貢にとって正に甘過ぎる櫁。 残す貢の敵は長男の勝のみ。 その勝がつい先日、建設中のビルの足場崩落事故に巻き込まれた。 知人数人と飲んだ帰りに歩いていた歩道での、死傷者4人の大事故だった。 その中で長男勝は、かすり傷ひとつ負わぬ無傷で生還した。 奇跡といってもよかった。 「……で、ミツグくんは、その事故で長男くんが足場をもろに食らうよう操作して欲しい、と。あー怖いっ! 鬼だねー」 「鬼畜だ」 「で、能力者悠一を支配するために手に入れた様々な情報は、お前にとって正に踵だったってわけ」 やるねミツグくーん! 「……今すぐこの踵を不死の泉に漬け込んでくれようぞ」 「馬鹿言ってんじゃないよ。今さら漬け込んでも手遅れだし。今回は本当に大変だよ? 図書館の自由を奪われたお前なんか、見れたもんじゃないし。かといってその依頼は無理でしょ」 「まあな」 遠い目で頷きながら、悠一の表情には珍しく微かな憂鬱が乗っている。 そんな友人の横顔を一瞥してから、勇也は音を出しながら膝に手をおいて立ち上がった。 「じゃあどうするの?」 「どうするもこうするもああするもそうす…」 「うるっさい。現実逃避してんじゃない。権力に屈して依頼を受けたら人殺しになるし、受けなきゃ大学にいられない」 「まあな」 「どっちもやだねー」 「やだねー」 「キモイし」
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