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神辺勝はほくそ笑んでいた。
総合病院の受付、右から2番目の女が可愛い。
あれは自分の美貌を心得ているタイプで、恐らく勝の視線の意味も理解しているだろう。
今度話し掛けて誘ってやる。
「栗林公園前」
タクシー乗り場で乗り込み、運転手に短く行き先を告げる。
運転手は何も言わずに、ゆっくりと車体を始動させた。
ああ、それにしても。
体調不良などという中途半端な退き方ではなく。
さっさとポックリ逝ってしまえばよかったのに。
窓の外を眺めながら、父親の運に鼻息を吹き掛ける。
総長世襲の話は自分にとって最高の幸運だと勝は思う。
父親のコネで就職した一流企業のデスクは退屈で仕方がない。
勝は努力が嫌いだ。
わざわざ自らに苦行を課して生きるタイプの人間の精神が理解出来ない。
理解どころか、嫌悪すら覚える。
世の中楽に生きるにこしたことはない。
好みの女を侍らせて、生意気な部下や気に入らない上司は排除する。
最初からオプションに入っていた権力を、余すことなく使わなくてどうする。
順序からいけば、総長は勝のものだ。
次男である衛は海外に行方を眩ませて久しい。
三男の貢は失敗作。
W大の卒業生であり、一流企業の役員である勝が、総長になるのが当然なのだ。
「到着しましたー」
いつの間にか目的地に着いていた。
勝は体を起こし、支払いを済ませてタクシーを降りる。
数歩で表れた荒んだ雑居ビルの階段を上がった。
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