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「玄関の花、ちゃんと薔薇にしてくれた?! オレンジと白っ!」
「自分で見て確認しなさいよ」
「トイレの芳香剤、緑系にしてくれた!?」
「自分で嗅いできなさいよ」
緑系ってなんなのよ。
「おやつのケーキ、生クリームは絶対無しよ?! シンプルなシフォン系にしてくれてる?! 飲み物はコーラよ!」
「だから。自分で冷蔵庫覗いてみなさいよ」
「おいおいおいおい、日曜の朝から一体何なんだ。我が家にハリウッドスターか大物政治家が来るのか?」
「そんなもんよりビップなのっ!」
鼻息荒く父に怒鳴って、私は鏡台を睨んだ。
今日は交際始まって以来初めて、彼が家にやって来る日だ。
両親に会うのも初めてで、家に上がるのも初めてで、ああっ、もう何もかもが初めてなのだ。
彼を両親に会わせても、彼が与える印象によって負が生じるとは思えない。
これにはそこはかとない自信がある。
両親は必ず彼を気に入るだろう。
私が緊張しているのは結局。
彼に与える、私の家族の印象。
私が育った家の印象。
私の両親の印象。
私はやっぱり、一滴も黒い染みを作りたくない。
彼が私に抱く感情に、一滴も。
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