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待ち合わせの駅には、かなりのゆとりを持って出掛けた。
約束の時間より20分も早く着いたので、トイレで一度髪型を整える。
前髪を撫で付けてから、ワンピースのシワを伸ばし、鏡に顔を近付けて化粧崩れをチェックした。
携帯を確認すると、もう5分前。
慌ててトイレを飛び出して、改札の前まで走って行く。
ちょうど電車が着いたところで、大きく深呼吸して、降りてくる人の群れから彼の姿を探した。
……。
あ。
いた。
すぐに分かる。探す必要なんてないくらい。
存在してさえいれば、私はどこにいても、すぐに彼を探知する。
「黒川くんっ」
無表情でこちらに向かってくる彼に呼び掛けた。
伏していた目がつっと上がって、私の顔をそこに映してくれた。
あー……、素敵……。
好き好き大好き抱き付きたい。
海外だったらよかったのに。
人目を憚らず抱擁しあって、熱くキスを交わしたい。
と、感じているのは恐らく私だけだから、彼には内緒にしておこう。
「おはよう! 来てくれてありがとう」
「グッドモーニング」
「……」
あいかわらずの挨拶を交わして、私は彼よりほんの少しだけ先を歩き始める。
今日は、私の家に招く日だもの。
私が彼をリードする日だもの。
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