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「……で?何で国に戻ってきているんだ?」
ただいま勇者による愉快な仲間達へのありがたーいお説教という名のお話会。
宿屋の床に正座している仲間の前で、頭を抱えながら説明を求める勇者。
濃密な魔力が漂う魔大陸から人間大陸に戻ってきたにも関わらず、頭痛と胃痛が彼を襲う。
もう勇者はすでに魔王討伐の心意気が折れかけである。
「何でって、けんが世界武術大会に出たいって言うからだけど?あ、勇者の分も申し込んでおいたから」
「ん」
「くぅちゃんも出る!」
詫びる様子なく、正座のまま好き勝手にほざく愉快な仲間たち。
勇者のコメカミが、ピクリと動いた。
だがしかし、愉快な仲間たちはそんなことを気にするはずがない。
「くぅちゃん、武術大会だけど出て大丈夫なのかなー?おにーさん、超心配」
「だいじょーぶ!」
魔法は無理ゆえに出場を見合わせたというのに、可愛い妹分はちゃっかり申し込んでいたことに対して過保護さ全開の魔法使い。
そんな魔法使いの真横で正座している薬師は、全く気にする様子なく手を上げて満面の笑みを浮かべる。
すると、魔法使いとは反対側で正座をしていた剣士が顔をこちらに向けて親指をぐっと立てた。
「まぁにぃ。『自分が身に着けた戦い方でもいいのか』って係員に聞いて『魔法じゃないなら、何でも使ってもいい』って言質はとってる」
「んじゃあ問題なしだな」
「問題なーい」
「問題あるだろっ!くぅ殿!何をする気だ!?」
頭痛と胃痛から黙っていた勇者だが、愉快な仲間たちから不穏な気配を感じ取るなり顔色を青ざめてニコニコ笑って座っている薬師に詰め寄った。
人畜無害にしか見えない彼女が、一番の爆弾を抱えているからだ。
「くぅちゃん、試合やる!」
キラキラした目で宣言する薬師。
何故だろうか。
試合という言葉が、勇者の中で『薬の実験』という響きに自動変換されている。
「その!試合に!出て!相手選手に何をするんだと聞いているんだっ!!」
思わず薬師の両肩を掴んでガクガク揺らしてしまう勇者。
もう世界で有名なはずの武術大会が、薬師のための薬師による(毒)薬の実験会場にしか見えなくなってきた様子だ。
きっとその予感は、あたっていることだろう。
犠牲者がトラウマにならないことを祈るばかりである。
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