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「はぁ……それで?くぅ殿は本気で何をするつもりなんだ?」
胃薬を飲み込んで何とか落ち着いた勇者が、鼻血を拭いながら甲斐甲斐しく面倒をみられている薬師に質問をすると、いまだに涙目でオデコを押さえている薬師に代わって剣士と魔法使いが口を開いた。
「たぶん戦う。くぅのやり方で」
「だよなぁ。試合で戦う以外に何をするってんだよー。くぅちゃんだから個性的かもしれないけど」
不思議そうに首を傾げて答える剣士と魔法使い。
そんな彼らの含みのある返答に、さらに顔色を変える勇者。
その顔には、汗がびっしょりと浮かんでいる。
もう本当に男前な顔が台無しである。
「だから……こんな危険人物を試合に出せるわけがないに決まっているだろうがぁあああっ!!」
わなわなと体を震わしながら、目をかっぴらいて叫んだ勇者。
しかし、そのぐらいで愉快な仲間たちが大人しくなるはずがない。
薬師に至っては、オデコを押さえたまま涙の溜まったオッドアイの目で勇者に向けて鋭く睨みつけている。
「やだ。くぅちゃん(実験データ採取のために)出る」
「ダメだ。今すぐにくぅ殿は参加を撤回させる」
「やーだー!」
「ダメだ!」
この国の王子としての権限をフルにでも使って撤回させようとする勇者の前で、地団駄を踏みながら頬を膨らませる薬師。
子どもの我儘をたしなめている親のようにしか見えない光景だ。
そんな様子の勇者の襟首を剣士が引っ張り、同時に魔法使いの腕が首に回る。
「「勇者」」
「ぐっ!?」
首が締まってもがいている勇者に、剣士と魔法使いはとても真剣な目でその丹精な顔を覗き込ませた。
「くぅを仲間外れ(にしたらモルモット役が回ってくるから)、よくない」
「いいか?世界大会なんだし(モルモット役の数が多い方が、こっちに回ってくる回数が減るから)数が多いにこしたことはないだろ」
「………」
薬師を想っての発言のように見せかけて、見事なまでに自分の身の安全を優先させた言葉である。
恐らく勇者が仲間になるまで、主なモルモット役であったのであろう。
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