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「あ、そうそう。言い忘れてたけど、勇者は偽名で登録してるからなー」
「……は?」
頭を押さえながらしゃがみ込んでしまった勇者の頭をベシベシと叩きながら、魔法使いが朗らかに笑みを浮かべたまま言い切った。
どうやら勇者の登録の手続きをしたのは、(勇者を除く)パーティーの保護者である魔法使いのようだ。
もう嫌な予感しかしない勇者である。
額に汗が浮かぶのを止められない。
「偽名って……何で」
「お前、一応この国の王子なんだろ?面倒事に巻き込まれるのはごめんなんだよなぁ」
「賛成」
「くぅちゃんもー」
「………」
魔法使いの言葉に、手を上げて同意を示す剣士と薬師。
そんな彼らを前に、許されるなら勇者は全力で叫びたい。
俺はいつでもお前たちに巻き込まれている!!……と。
だがしかし、そんなことを言おうものなら何をされるか分かったもんじゃない。
それが身に染みて分かっている勇者は、それに触れないように頑張った。
「……はぁ。それで?」
「偽名で登録したから、変装しろよってことだな」
「勇者様、変装!くぅちゃん、準備する!」
「まぁにぃ。くぅと変装道具買いに行ってくるから、お金」
変装の一言に、薬師がなぜか目を輝かせた。
そりゃもう楽しみに出仕方がない、という様子で。
「ちょっと待ってくれるか!?」
今ここで止めなければ、勇者は全力で後悔するハメになるだろう。
しかし、そんな勇者の空しい叫びも、愉快な仲間に届くはずがない。
「ちなみに、偽名は『胃薬のお友達』な」
「まぁ殿!?それ、偽名でもなんでもないよなっ!?しかも長い!」
「縮めて『胃達(いたち)』にすれば問題ない」
「けん殿!そういう問題じゃない!そしてそれは動物の名前を連想させるか、複数の胃を想像させるからやめてくれ!」
「勇者様、『いーちゃん』?」
「くぅ殿!?何でもかんでも頭文字だけをとればいいという話じゃないから!」
勇者、もう超必死である。
必死になったところで、すでに『胃薬のお友達』で登録されているから無駄であることにも気づかないほど必死だ。
その必死さ、すでに憐れの一言でしか言い表せない。
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