勇者は魔王城に辿り着き……ませんでした

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「はいはい、くぅちゃん。勇者で遊ぶのが楽しいのは分かるけど、そのへんにしておこうな?せっかくおにーさんが淹れた紅茶が冷めちゃうぞー?」 「飲むー!」 魔法使いが用意した紅茶の前に、大人しくレジャーシートに座った薬師。 レジャーシートの中心では、剣士がバスケットの中にあるサンドイッチからちまちま薬草を抜いている。 「薬草、抜き終った」 「えー……」 「くぅのはそのまま」 「ありがとー!」 体にはいいかもしれないが、苦味が半端ない薬草入りのサンドイッチを美味しそうに食べる薬師の味覚が心配である。 魔法使いは苦笑をしながら薬師の頭を撫で、剣士は無表情のまま目を逸らして自分のサンドイッチを頬張る。 そして誰にも相手にされていない崩れた勇者は、そのまま突っ伏しながら頭痛に耐えるように頭を抱えている。 何度でも言おう。 ここは、魔王城の城門前。 ラスボスの本拠地の、まさに目の前である。 そこでほのぼのピクニック気分の仲間たち。 「俺の仲間は、何かが決定的にずれている……っ!」 勇者の叫びがあがったのは、無理ないことである。 頑張れ、勇者。 ラスボスはすぐそこだ、勇者。 きっとラスボスだけは君を待っている……かもしれない! 仲間(特に薬師)をまとめ上げて行け、勇者よ! 「お腹いっぱいになったから、ちょっとお昼寝ー」 「俺も寝る」 「くぅちゃん、けん。寝るならおにーさんのマント被って寝なさい。風邪引くから」 「「はーい」」 くっついて横になりだした薬師と剣士にマントをかけてやる魔法使い。 「くぅ殿、寝るな!けん殿、起きろ!そしてまぁ殿もあっさり寝かしつけないでくれ!」 「「「一休み一休みー」」」 「十分一休みしただろうがぁあああ!!」 ……勇者が魔王城に足を踏み入れるのは、まだ先になりそうである。
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