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おそらく遼の描いたシナリオでは、その勝算の鍵を握るのが私なんだ。
クーデターを起こし、内側からこの組織を浸食していくために――――。
「……」
喉に上がった生唾を飲み込み、決意を新たに最上階まで続く階段に右足を置いた。
――――――――
「よく来てくれたね。君の話は佐橋くんから聞いてるよ。真面目で非常に優秀な循環器内科医だと」
足を踏み入れたセンター長室で私を迎えてくれたのは、センター長の川崎医師と中川理事長であった。
高級感を漂わせる応接ソファーに座る理事長が、正面に腰を掛けた私の顔をマジマジと見て笑みを浮かべる。
彼が執筆した論文や学会の抄録の中でしか御顔を拝見したことの無い、雲の上の名医が私に目を注いでいる。――そう意識する度、空気までも強張って来る。
「ありがとうございます。身に余るお言葉を頂き恐悦に存じます」
深々と頭を下げながら深呼吸をして、必死に引き攣りそうになる顔を緩めて笑顔を纏う。
「ははっ。そんな畏まらなくても大丈夫だよ。肩の力を抜いて抜いて。君は私の信頼ある友人が是非にと推す、類い稀なる有能な医師だ。堂々としていれば良い」
「は、はい。勿体無いお言葉をありがとうございます」
「センター長、彼女にこの施設の案内をしてやってくれ。私は今から提携病院で開かれる会議に出席してくる」
理事長はセンター長にそう告げると、貫禄を漂わせる体をゆっくりとソファーから持ち上げた。
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