枯れた華

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ーーーーー 「宮坂先生、これ来週の心カテ(心臓カテーテル検査)患者のリストです。金曜日の夕方までに検査前指示をお願いできますか?」 ステーションを出ようとする私に、この循環器病棟の師長が声を掛けた。 私は足を止め後ろを振り返る。 そして、差し出された一枚の用紙に視線を落とした。 「はい、金曜日の午前中には指示だしておきますね」 私は心カテリストに目を通しながら頷いた。 「宮坂先生は、いつも一度の催促で指示をくれるので助かりますよ。村上先生なんて、3回も4回も催促しないとくれないんですから」 「えっと…そうなの?」 あからさまな呆れ顔で大きなため息をつく師長の顔を見て、私は控えめな笑みを浮かべた。 「そうなんですよ。それだけじゃ無いんですよ、この前の当直の時なんて村上先生…」 「あー…っと、師長ごめんなさい。今日これから急ぎの用事があって。その話は次の当直の時に聞かせて貰います。休憩室でお饅頭でも食べながら」 どこまで続くか分からない話を遮り、ニッコリと微笑む。 「あら、ごめんなさいね。先生を見るとつい愚痴っぽくなっちゃって。今からまた検討会か何かですか?いつも遅くまでお疲れさまです!」 師長がおばちゃん口調で…いや、目尻に無数のシワが刻まれた立派なおばちゃんなのだが、彼女は私の二の腕をペチペチと軽く叩いて笑った。 「検討会…まぁ、そんなところです。このリスト貰って行きますね。師長もお疲れさまです」 私は師長に柔らかな笑みを返し、用紙を片手にステーションを抜け出した。
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